ヘッドレスCMSとは「画面表示部分がないCMS」のことで、2010年代の後半に欧米を中心に普及が始まった比較的新しいシステムです。日本でも上場企業をはじめとする企業や、政府統一Webサイトで導入が進められています。
従来のCMSではとフロントエンド(コンテンツを画面表示する表示レイヤー)とバックエンド(コンテンツの入稿や管理を行う管理レイヤー)が一体化しているカップルドCMSが一般的です。またフロントエンドとバックエンドが分離しているデカップルドCMSもありますが、デカップルドCMSも基本的にフロントエンドとバックエンドが同一プロダクトとして提供されます。
これに対し、ヘッドレスCMSは「フロントエンド(=ヘッド)」に相当する部分が「省かれた(=レス)」CMSです。イメージとしては、バックエンド部分だけのデカップルドCMSともいえます。
ヘッドレスCMSではバックエンドで処理・生成したデータを、API経由で外部のフロントエンドに接続して表示します。
外部のフロントエンドとは、たとえばPC向けのWebサイト、スマホ向けのWebサイト、スマートウォッチ、デジタルサイネージなどです。音声だけの出力装置やIoTデバイスなどもフロントエンドとして利用できますし、ニーズに合わせて複数の異なるフロントエンドを利用できるのもヘッドレスCMSの特徴です。
ヘッドレスCMSのプロダクトにはさまざまな種類があります。有名なところではドイツの「Contentful」や「GraphCMS」、フランスの「Strapi」などがあり、日本でも「Blue Monkey」や「Micro CMS」といった国産ヘッドレスCMSが人気です。
これらのヘッドレスCMSはそれぞれ、運用方法や拡張性、サポート、利用料金などの部分に独自の特徴があるため、導入する際は自社の環境やニーズに合わせて比較検討する必要があります。
ヘッドレスCMSが世界中で急速に普及している背景には、Webに関連するいくつもの「時代のニーズ」があります。
2010年代後半から、Webの活用場面で「ワンソースマルチデバイス対応」のニーズが高まりました。従来のパソコンを中心としたWebサイトに加え、スマートフォンやタブレットといったデバイスごとに専用サイトを用意することがWebマーケティングで重視されるようになったのです。ヘッドレスCMSは、まさにこのニーズに応えるものでした。
Webブラウザは時代とともに進化しています。またJavaScriptも進化し、ブラウザ上での表現の幅が広がりました。このようにフロントエンドが進化する一方で、バックエンドにはかつてのような高機能が求められなくなっています。このためシンプルで安価なヘッドレスCMSはWeb制作の現場からのニーズにも合致しています。
現在、Googleをはじめ大小さまざまな企業がWeb上の独自サービスを外部に公開しています。たとえばGoogleカレンダーやGoogleマップのデータをAPI経由で取得し、自社のサイトで利用することは珍しくありません。このようにAPIを広く活用して外部データを取り込むニーズと、APIによってコンテンツを送り出すヘッドレスCMSは非常に相性が良いといえるでしょう。
ヘッドレスCMSに含まれるメリットも、やはりヘッドレスCMSの普及を後押ししています。
すでに説明した通り、さまざまな種類のフロントエンドから自社の目的やニーズに合わせて自由に選べるのがヘッドレスCMSのメリットです。もちろん選択できるフロントエンドはひとつとは限りません。「ワンソースマルチデバイス」で触れたように、複数の異なるフロントエンドを同時に利用することもできます。
ヘッドレスCMSではエンジニアの設計次第で、どのような画面デザインにも対応できます。既存Webサイトのフロントエンド部分(デザインなど)を維持したままより自社のニーズに合ったヘッドレスCMSに乗り換えたり、フロントエンドを拡張することも容易です。
ヘッドレスCMSではコンテンツデータをAPIで取得するため、従来のCMSをWebに組み込む場合と比べてページ表示速度が高速化されます。
表示レイヤーにあたるWebサイトがサイバー攻撃を受けても、APIで連携しているだけの管理レイヤーには影響が及びません。リスクを大幅に低減(もしくは回避)できることもヘッドレスCMSの強みです。
近年急速な普及が進むヘッドレスCMS。Web制作やWebマーケティングの世界的なトレンドや、ヘッドレスCMSならではのメリットがそれを後押ししています。これからWebサイトの自社開発を行う企業にとって、ヘッドレスCMSは強力なツールとなっていくことでしょう。